「信じられん……」
「うん、でも現実だ」
「少しはこうなった経緯を気にかけたらどうだ」
「まずは今目の前にある結果を受け止めるべきじゃないか」
「……ふぅ。そうだな、ああ認めよう。俺たちは時間を遡った」

ルルーシュは黒い制服でアッシュフォード学園の生徒であることを主張し、スザクはブリタニア軍歩兵のプロテクターを身にまとっていた。薄暗いそこはトラックの荷台の中で、出れば広がるのは倉庫内という景色だろう。
ルルーシュほど記憶力に自信がないスザクでも、これがいつの、どこの、どの場面かははっきり判る。そのスザク以上に現状を確信しているだろう友は、そばの歪な球体を蹴っていた。

「おい、起きろ魔女」
途端、光がこぼれて殻が割れる。現れたのは見覚えのある少女だ。緑色の髪がふわりと舞って、薄く開かれた金色の眼はしばし宙を彷徨い、ルルーシュ達で止まる。

「……お前たちは……」
「まさかとは思うが、これはお前の仕業か? C.C.」
寝ぼけたような表情が一瞬で引き締まる。小さくこぼれた言葉を、ふたりは聞き逃さなかった。
「お前、マリアンヌの……」
それだけで充分だった。

「なるほど」
あっさり身を引き反転したルルーシュにC.C.が「え、」と目を点する。顔を付き合わせるルルーシュもスザクも、まったく気にはしなかった。

「とはいえ、誰かの作為の線も残っている。継続して調べるしかないな」
「原因が僕かきみっていう可能性は?」
「望んだのか?」
「まさか」
「だろう。俺たちの望む未来はあの先にこそあった」
「ああ。だが、振り出しに戻されたからには」
「勿論。前に進むことをやめたりしない」
「そのままなのって僕たちだけだと思うか?」
「データが少なすぎる。手近からひとつずつ確かめていこう」
「あ、ギアスは?」
「なくなっている。感触がないんだ」
「やっぱり。僕がきみにかけられたやつも消えているみたいだ。だとすると肉体的変化は完全に巻き戻ってるな。筋力も落ちているし」
ギアスという言葉にC.C.がピクリと反応する。それを横目で見ながら「いいのか?」とスザクは訊ねた。

「そんな凶悪な顔をしておいて何がいいのか? だ。ないならないで、何とでもするさ」
「ならいいけど。あ、この後って大丈夫? ギアスで乗り切ったんじゃなかったっけ」
「どうということもないだろ。到着まであと三分二七秒ある」
時間まで! さすがに目を剥いた。疑う気は湧かないものの、彼の記憶領域はいったいどうなってるんだろう。
「一度頭の中覗いてみたいな」
「最低限、ニューロサージェリーを修めて出直してこい。ところでスザク、前の口調が顔出してるぞ」
「え? 気が抜けたのかな」
「馬鹿。むしろ気を張れ、失敗は許されないんだぞ」
「判ってるよ。みんなを死なせないために」
「誰もが平等な明日を迎えるために。じゃあそろそろ行くよ。カレン達も回収していかないとな」
「気を付けてねルルーシュ。ナナリー達によろしく」
「お前も気を付けろよスザク。ロイド達によろしく」

「お、おい!」
それまでほぼ完全に存在を無視されていたC.C.が、握手を交わして分かれようとするふたりを慌てて呼び止めた。なんだ、というより何をしているんだ、というような表情をしてルルーシュが首を傾げる。

「着いてこないのか? 好きにしていいが、母上との繋がりは切っておけよ」
「なっ、……いや、それはいい。お前たち、一体なにをするつもりだ」

なにって。会話に挟んだ単語のせいだろう、警戒心を孕む質疑に、きょとんとでも音がしそうな顔付きでルルーシュとスザクは目を見合わせた。その目線を同時に下げて、離しそびれた手を見る。C.C.へ笑顔と共に顔を向けるのも同時だった。
こうして手と手を取ったなら、やることは当然ひとつ。

『反逆だ』






あれ、僕だったっけ俺だったっけ、最後の方。確認する勇気がありませんまた泣いてしまう!
08.10.01